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午前の光




授業LIVE! - 1 (1年生の助動詞)

基本情報 

 日 時:6月●日(●曜日)
 対 象:1学年●組(男子22名、女子19名)
 教 材:『徒然草』 第八九段 「奥山に猫またといふもの」
 教科書:「探求 国語総合」(桐原書店) 26~27ページ

授業の背景(年間指導計画)

・中間考査までに、説話教材を使いながら、古文入門の授業を行った。
・文法面では、仮名遣いや用言の活用について学習している。
・それを受けて、前期期末考査までに、『徒然草』を学習しながら、過去・完了・打消の基本的な
 助動詞について学習する。

今までの授業の流れ

第1時 

 ①助詞・助動詞が、情報に脈絡やニュアンスを与えたり、判断や認識を示すことを解説する。
 ②助動詞活用表の構造や使い方について解説する。

第2時

 ①「奥山に」を音読する。
 ②大雑把なあらすじを確認する。
  ・登場人物、地名、オチなどをごく簡単に。
 ③何も見ないで、助動詞と思われるものに印をつけさせる。
 ④助動詞活用を見ながら、助動詞と思われるものを確かめる。
 ⑤各行に含まれる助動詞数を教科書にメモさせる。
  (この教科書では、一行目は
    「奥山に猫またといふものありて、人を食らふなる」と人の言ひける
   なので、この行に含まれる助動詞の数「2」を、この行の上にメモさせるのである)
 ⑦過去と完了の助動詞の総計は18個であることを伝え、正確に探させる。
 ⑧完了の助動詞の用法をまとめる。

第3時(本時)

 ①残りの助動詞を行ごとにピックアップし、助動詞活用表の使い方に習熟する。
 ②打消の助動詞「ず」を暗記する。

本時の学習指導目標

 ①文法は暗記するものではなく、論理的に思考するものであることを身につけさせる。
 ②助動詞活用表を使いながら、助動詞全般の学習法を身につける。
 ③過去・完了・打消の助動詞については、用法と活用を暗記する。
 *考えることの重要性を強調するが、助動詞は考えることの材料となるものであり、
  ある程度暗記することも必要であることを伝える。

教科書本文 (*教科書と同じ体裁に改行して示しています)

奥山に猫またといふもの

 「奥山に猫またといふものありて、人を食らふなる。」と、人の言ひける
に、「山ならねども、これらにも、猫の経上がりて、猫またになりて、人と
ることはあなるものを。」と言ふ者ありけるを、何阿弥陀仏とかや、連歌し
ける法師の、行願寺のほとりにありけるが聞きて、ひとりありかむ身は
心すべきことにこそと思ひけるころしも、ある所にて夜更くるまで連歌し
て、ただひとり帰りけるに、小川の端にて、音に聞きし猫また、過たず足
もとへふと寄り来て、やがてかきつくままに、首のほどを食はむとす。肝
心もうせて、防がむとするに、力もなく、足も立たず、小川へ転び入り
て、「助けよや。猫また、よやよや。」と叫べば、家々より、松どもともし
て走り寄りて見れば、このわたりに見知れる僧なり。「こはいかに。」とて、
川の中より抱き起こしたれば、連歌の賭物取りて、扇・小箱など、懐に持
ちたりけるも、水に入りぬ。希有にして助かりたるさまにて、はふはふ家に
入りにけり。
 飼ひける犬の、暗けれど主を知り
て、飛びつきたりけるとぞ。                  (第八十九段)

授業LIVE! (展開部分約20分)

(単語小テスト、本文音読、前時復習などの導入部分は省略)
(H:私  a~nは生徒)

H:では、一行目の助動詞から。前回「ける」を見つけたのでそれ以外は一個。a君?
a:最初「人を食らふなる」の「なる」だと思ったのですが、活用表を見たら出ていないので、分から
  なくなりました。
H:活用表に出ていないって、どこを探したのかな?
a:終止形の欄を「横に」見たのですが、終止形の欄に「なる」はありません。
H:どうして終止形の欄?
a:「食らふなる」の下が句点(「。」)になっていて、「。」の前は終止形だからです。
H:なるほど。正しい判断ですね。ただし、ここは特殊な例で、「なる」は連体形です。誰か、
  文末の「。」の前なのに、連体形になる場合を思いつく人はいますか? はい、bさん。
b:係り結びの結び場合です。
H:その通り。ただし、ここに係助詞はある?
b:ありません。
H:そう、ないね。疑問を表す語を文頭にくると文末が連体形になることもありますが、それもない。
  実はここは、余情を表す連体止めです。
    板書:連体止め=言いさすことで余情を表す。
  ただし、話の本筋ではないので、連体止めについてはまたそのうち説明します。ここは、連体形
  だということで話を進めます。では、連体形として「横に」見てみると、「なる」は何でしょう?
  c君?
c:「推定」か「断定」です。
H:そう、連体形の欄には「なる」が二つありますね。では、この次のステップとしては、どう考えたら
  いいだろう? d君?
d:文脈で考えてみる…とか?
H:文脈を考える前に、もう一つ、確認する段階がありますね? e君?
e:それぞれの「なる」の欄を「縦に」見て、接続を調べると思います。
H:その通り。で、この場合の「なる」について説明してくれる?
e:この場合は、上が「食らふ」となっていて、体言ではありません。だから、「推定」だと思います。
H:「断定」の「なる」の接続は体言だけだっけ?
e:えっーと、ああ、連体形もあります。
H:そう、だから「食らふ」の活用形を決めないとダメだね。「食らふ」の活用の種類は何?f君?
f:ハ行四段活用です。
H:正解。では、みんなでハ行四段で「食らふ」を活用させてみよう。(声を揃えて活用させる)
    板書:  食らはーズ
         食らひーケリ
         食らふ ○  
         食らふートキ 
         食らへードモ
         食らへ !
  で、困ったことになりましたね。gさん?
g:終止形と連体形が同じで区別ができません。
H:そう。四段活用は、連体形と終止形が同じだ。よって、ここは文脈によって区別しなければなら
  ないことになる。最初から大変な目にあいますね。
    板書:  食らはーズ
         食らひーケリ
         食らふ ○  +なる → 「推定」
         食らふートキ +なる → 「断定」
         食らへードモ
         食らへ !
  助動詞活用表の「意味」の欄を見てみましょう。「断定・なり」は、話し手が「~である、~だ」と
  はっきり判断することを表して、「~デアル」と訳すことになります。「推定・なり」は、主として
  耳から聞いた情報を手がかりに推測することを表して、「~ヨウダ、~ラシイ」などと訳しますが、
  「伝聞」ともありますね。人から聞いた話にもとづいて判断するといった意味です。
  さて、ここの「なる」はどっちでしょう?そして、その判断の根拠となる表現はどれでしょう。
  本文から抜き出し見よう。h君、どうですか?
h:「伝聞」だと思います。
H:その通り、正解です。根拠となる表現は?
h:「」の次の、「人の言ひけるを」です。
H:いいね。ただし、もう少し先のところを読むと、さらに強力な根拠が見つかります。
  見つけてみましょう? では、iさん?
i:4行目に、「行願寺のほとりにありけるが聞きて」と、「聞きて」があります。
H:よく見つけたね。そこですね。h君が挙げてくれた「人の言ひける」でも、それを聞いたんだと
  いうことは分かるけど、ここではちゃんと「聞きて」となってますね。ということで、やっと
  「なる」の意味が決定しました。ここは「伝聞」と言うことにしておいて下さい。訳は、下に注が
  出ていて「食うそうだ」となっていますが、これでどうしてその訳になったのか分かりましたね。
  では、j君、「食らふ」は結局何形だったのかな?
j:連体形…ではなくて、終止形です。
H:正解。では、ここでちょっと時間をとりますから、この「なる」を「伝聞」と決定した過程を、もう
  一度、自分で自分に説明してみましょう。「横に」見て「縦に」見て、動詞の活用を…と、
  説明してみて。(約1分間)
H:では次、二行目に行ってみましょう。二行目は2個ね。では、kさん?
k:…
H:どれでもイイから、思い切って言ってみましょう。
k:「猫またになりて」の「なり」?
H:残念。それは「大人になる」とかの「なる」ですね。動詞です。いいですよ、では、lさん?
l:「山ならねども」の「なら」。
H:正解。もう一つ。
l:「ならね」の「ね」ですか?
H:正解。「なら」は何?
l:「断定」です。
H:なぜ?
l:上が「山」という体言だからです。
H:そう。体言につく助動詞は「断定」だけだったね。では、「ね」ですが、これを活用表から「横に」
  見て探す場合、何形の欄を見ますか? mさん?
m:已然形です。
H:なぜ?
m:「ね」の下に「ども」があって、「ども」は已然形につくからです。
H:その通り。では、已然形の欄を「横に」見てみましょう。あった? n君?
n:「打消」の助動詞「ず」の已然形です。
H:模範解答ですね。だから、ここは「断定」+「打消」で、「~デナイ」という訳になります。
  ところでn君、「打消」の「ず」の「活用の型」の所はどうなっていますか?
n:特殊型となっています。
H:そう、特殊型ですね。だから、これはしっかり暗記しなければならない。意味は「打消」だけです
  から簡単ですが、活用はしっかり暗記しないと。ちなみに、皆さんは英語が得意だからかも知れま
  せんが、考査にこの「ず」を出すと「否定」と書く人が何人か出ます。でも、「否定」だと×です。
  古典文法では「打消」だから、しっかり覚えておくこと。では、活用を暗記しましょう。
  (全員で声を出す)
     ず ・ず ・ず ・ぬ ・ね ・マル
     ざら・ざり・マル・ざる・ざれ・ざれ
  活用表の「ず」と「ざら」の間に縦線を引いて、二行で覚えましょう。では、もう一度、もう一度、
  もう一度、目を上にあげてもう一度、見ながらもう一度、もう一度、最後に見ないでもう一度…。
 (以下略)

補足

(1)授業は、毎回発問を中心に行うように心がけています。指名は、日付で最初の生徒を決めた後は、席順に当てていきます。上のライブでも、約20分程度で14名指名していますので、だいたい一回の授業(45分)で、2/3~全員が当たることになります。そのこともあって、誰を当てようかと考えることなく、機械的に席順で当てています。
(2)助動詞の授業なので文法中心ですが、「横に」見る、「縦に」見るという指示をすることで、徹底的に助動詞の活用表に慣れることを目指しています。また、常に「根拠は?」「なぜ?」と聞くことで、論理的に考える姿勢を養っています。
(3)そのため、ずいぶん「詳細な」という印象を持たれる方もいらっしゃるかも知れませんが、この教材ともう一つの教材については、この助動詞という点に特にポイントをおいて授業を展開しています。二つの教材をやる間に、とにかく助動詞の活用表に慣れてほしいからです。ここできっちりと文法に関する論理的な思考の方法を身につけさせることで、後の展開に資すると考えています。
(4)個々の助動詞の説明にあたっては、例えば
   「断定・なり」は、話し手が「~である、~だ」とはっきり判断することを表して、「~デアル」
   と訳すことになります。「推定・なり」は、主として耳から聞いた情報を手がかりに推測する
   ことを表して、「~ヨウダ、~ラシイ」などと訳しますが、「伝聞」ともありますね。人から聞
   いた話にもとづいて判断するといった意味です。
といった感じに、
   ①先ずその助動詞が表す根本的な判断・認識について説明し、
   ②それを現代語に直そうとする際、いわゆる「助動詞の意味」といわれる色々な訳し方の
   バリエーションが生じること
を説明しています。頭から「助動詞の意味」、つまり訳し方を暗記させることは避けたいものです。
(5)なお、動詞の活用で連用形を考える時、「ーたり」で教える方がいらっしゃいますが、これは「けり」で覚えさえた方がベターです。形容詞の已然形に「~けれ」の形があり、それとの区別を論理的に考えさせる上でも、「たり」に続く形と教えたのでは二度手間になります。例えば、前期中間テストの際に、『徒然草』序段を使って、
 (序段)の傍線部「こそ」の結びは、「ものぐるほしけれ」であって「けれ」ではない。なぜそう
  判断できるのか、「けり」の接続という観点、あるいは、形容詞の活用という観点から、
  論理的に説明せよ。
という問題を出題しました。高校一年生レベルの解答例としては、
  例1 (過去の助動詞)「けり」は連用形に下接するので、「ものぐるほし・けれ」と分解する
    と、形容詞の終止形に下接していることになっていまし、おかしいから。
  例2 形容詞に助動詞が下接する場合は、カリ活用(補助活用)に下接するのが一般であり、
    この場合も「ものぐるほしかり・けれ」となるはずであるから。
を期待しますが、この過程で「けり」の接続の知識が生きてきます。用言の活用ということで、動詞・形容詞・形容動詞の活用を一括して扱う場合が多いことを考えると、連用形は「たり」ではなく、「けり」で教えた方がよいと思います。

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マジックアワーのラベンダー