授業LIVE! - 2 (3年生「源氏物語」夕顔巻)
基本情報
日 時:6月●日(●曜日)
対 象:3学年 文類型 必修選択4組(男子21名、女子19名)
教 材:『源氏物語』 「廃院の怪」(夕顔)
教科書:「古典講読」(三省堂) 22~23ページ
授業の背景(年間指導計画)
・中間考査までは、『枕草子』の回想章段を扱った。(「二月つごもり頃に」「関白殿、黒戸より」「頭
の弁の、職に参り給ひて」)
・中間考査後は、『源氏物語』を学習する。前期期末までに「桐壺」「夕顔」「葵」、後期中間までに
「若菜上」「柏木」「幻」を扱う予定である。
今までの授業の流れ
・1、2年次には、教科書本文をノートに写した上で現代語訳をするように予習指導をしているが、
3年生に対しては、ワープロで行間をあけて打ち出した本文を、ノートに添付できるようにB5版
で印刷して配布している。
・予習(現代語訳)の際に注意するポイントについては、予習プリントを配布している。
・全員の予習を前提に授業を進めているが、速度を確保する意味で、中間考査後からは、4~5行程
度に区切りながら、前もって訳の担当者を指名してある。
・訳を作る際には、
①間違った方が全員の学習になるので、間違いを恐れることなく、自分で訳を作る(参考書を見
ないこと)
②うまい訳を作るのではなく、助動詞や敬語、人物関係が明確に伝わる直訳を作る
③訳せない場合は、その部分をはっきりさせておけば、その場でヒントを出す
といったことを伝えてある。
・この教材の前には、「桐壺」の冒頭部分(冒頭から、源氏の誕生、母更衣の苦悩の場面まで)を扱
っており、それからこの場面までのあらすじについては、教科書付録の「年立」を使って説明して
ある。その過程で、
板書
●源氏物語=皇位継承権を失った者の物語
↓
↓ ・藤壷との逢瀬・冷泉院の誕生 「罪」
↓ ・光源氏=准太上天皇
↓
〇源氏物語=皇位継承権を失った者が皇位につく物語
といった説明や、語り手の存在などについて解説してある。
本時の学習指導目標
①登場人物を確定する
②その際、接続助詞や敬語などを活用する力を養う
③場面設定の妙を理解する
④「なり」の識別について理解する
*このライブは、上記①~②に関する部分である。③~④については、次回LIVEにて掲載予定。
教科書本文
廃院の怪
宵過ぐるほど、(A)すこし寝入り給へるに、御枕上にいとをかしげなる女居て、「おのがいとめでたしと見奉るをば尋ね思ほさで、かく異なることなき人を率ておはして時めかし給ふこそ、いとめざましくつらけれ。」とて、この御かたはらの人を(B)かき起こさむとすと見給ふ。物に襲はるる心地して、驚き給へれば、灯も消えにけり。うたて思さるれば、太刀を引き抜きてうち置き給ひて、右近を(C)起こし給ふ。これも恐ろしと思ひたるさまにて(D)参り寄れり。「渡殿なる宿直人起こして、紙燭さして参れと言へ。」と(E)のたまへば、「いかでかまからむ、暗うて。」と(F)言へば、「あな若々し。」とうち笑ひ給ひて、手を叩き給へば、山彦の答ふる声いと疎まし。人え聞きつけで参らぬに、この女君いみじくわななき惑ひて、いかさまにせむと(G)思へり。汗もしとどになりて、我かの気色なり。「もの怖ぢをなむわりなくせさせ給ふ本性にて、いかに思さるるにか。」と右近も聞こゆ。いとか弱くて、昼も空をのみ見つるものを、いとほしと(H)思して、「我人を起こさむ。手叩けば山彦の答ふる、いとうるさし。ここに、しばし、近く。」とて、右近を引き寄せ給ひて、西の妻戸に出でて、戸を押し開け給へれば、渡殿の灯も消えにけり。風すこしうち吹きたるに、人はすくなくて、さぶらふかぎり皆寝たり。この院の預かりの子、睦ましく使ひ給ふ若き男、また上童一人、例の随身ばかりぞありける。(I)召せば、御答へして(J)起きたれば、「紙燭さして参れ。随身も弦打ちして絶えず声づくれと仰せよ。人離れたる所に心とけて寝ぬるものか。惟光朝臣の来たりつらむは。」と(K)問はせ給へば、「さぶらひつれど仰せ言もなし、暁に御迎へに参るべき由申してなむ、(L)まかで侍りぬる。」と(M)聞こゆ。このかう申す者は、滝口なりければ、弓弦いとつきづきしくうち鳴らして、「火危ふし。」と言ふ言ふ、預かりが曹司の方に去ぬなり。内裏を(N)思しやりて、名対面は過ぎぬらむ、滝口の宿直奏し今こそ、と推しはかり給ふは、まだいたう更けぬにこそは。(後略)
授業LIVE! (展開部分約30分)
(前時復習=あらすじ確認、音読などの導入部分は省略)
(H:私 a~rは生徒)
H:この部分は、登場人物を確定するのがちょっと難しいので、今日はオーソドックスにそれから取
り組んでみよう。まず、ちょっと時間を取るので、各自黙読して、脚注も参考にしながら、登場人
物を本文中から抜き出してみること。ただし、光源氏に相当する語はないので、それだけは挙げて
おきます。では、始め。(この間に板書)
板書例
<登場人物>
1 光源氏
2
3
4
5(全体を示す表現=7字)
a
b
c
6
H:ちょっと黒板を見て。登場人物…って、人物ではない存在もいるし、この場には直接は登場しな
い人もいるんだけど、これだけメモすることができます。1と2がペア、3と4がペア。5はある
集団で、その集団全体を示す語を7字で抜き出した上で、その構成メンバーを本文中から抜き出す
こと。6は…まあ、ちょっと変な存在かな。では、もうちょっと時間を取るので、これを埋める形
でまとめてみて。
H:では、そこまで。なかなか難しいので、とりあえず埋まられるところを埋める形で、何人かの人
に聞いてみましょう。「何番は誰」という形で答えてみて。では、aさん?
a:え~、2が「女君」。
H:「女君」は何ページの何行目に出てくる?
a:23ページの1行目です。
H:そう、あるね。これが、この場面の女主人公である夕顔です。ただし、源氏と夕顔がペアという
のもとてもよく分かるんだけど、私の意図としては、夕顔の位置は3です。とりあえず、3のとこ
ろに「女君」(夕顔)としておこう。(板書する) さて、私のペアの考え方がどういうものかも
予想しながら残りのところを。では、b君?
b:2が「惟光朝臣」。
H:正解。b君は私が考えたペアは何だと思う?
b:主人とそれに仕えている人というペアだと思います。
H:そうです。ちなみに、惟光は光源氏にとっては何だったでしょう?
b:「何だった」というのは…
H:え~、つまり、惟光は光源氏の腹心の部下なんだけど、光源氏の何…というか、どういう関係だ
ったったけ?
b:乳母子ですか?
H:そうそう。惟光は光源氏の乳母子、つまり、同じおっぱいを飲んで育った仲というわけ。小さい
時から一緒に育ち、気心の知れた一番信頼できる部下ということですね。ちなみに、一年生の時に
やった『平家物語』「木曽の最期」で、木曽義仲の乳母子は誰だっけ? 覚えている人?
H:誰もいない? 今井四郎兼平。最後のところで、刀を口に含んだまま真っ逆さまに馬から飛び降
り、「貫かつてぞうせにける」という壮絶な最期を遂げた人だ。ということで、2が惟光朝臣。乳
母子とも書いておこう。(板書する) ところで、この場面に惟光は登場する?c君?
c:登場はしません。
H:そう、話題の中に出て来るだけ。では、ついでにc君、夕顔にとっての惟光的存在は誰だろう?
c:右近。
H:正解。このページでは右近に注がついていないんだけど、教科書で飛ばした前のページの脚注の
ところに「夕顔の侍女」と出てくる。夕顔は、この廃院に連れて来られる時、この右近だけを一緒
に連れてきているので、夕顔にとっては最も信頼できる女房ということになるのだろう。というこ
とで、4が右近。(板書する)
H:さて、こんなところまでは見つけてほしかったんだけど、あとは難しいね。でも、もうちょっと
聞いてみようかな。dさん?
d:滝口?
H:そうそう、よく見つけた。どこに出てくる?
d:23ページの13行目。
H:この人は、この登場人物表のどこに入るかな?
d:5のa~cのどこかだと思います。
H:そうだね。ただしこの「滝口」はちょっと入れる場所が難しいので、脇に置いておきます。あと
でもう一度考えよう。ほかには、eさん?
e:「女」?
H:「女」? どこに出てくる?
e:22ページの1行目、「御枕上にいとをかしげなる女居て」とあります。
H:あ~、その「女」ね。これは6番。(板書する)しかし、この女って何だろうね? ちょっと登
場人物の話からはずれるんだけど、重要な所なので文脈を確認しておこう。冒頭に、「宵過ぐるほ
ど、少し寝入り給へるに」とあるが、「寝入り給へる」の主語は誰だと思う? f君?
f:源氏ですか?
H:そう。冒頭で何もヒントがないんだけど、これは源氏です。つまり、源氏が寝入りなさったとい
うこと。「給ふ」という敬語がついていることにも注意しておこう。ここで問題。「寝入り給へる
に」は、直接的にはどこに掛かっていくだろう? ちょっと考えて。では、gさん?
g:「女居て」ですか?
H:そう、そこだと思いがちですね。ちょっとウツラウツラして気づいたら、側に女が座っている…
というのは、なかなか理想的なシチュエーションかも知れませんが(笑)…。ここは違うんです。
もう一度チャンスを挙げましょうか(笑)。
g:あ~、「見給ふ」?
H:そう正解。つまり、ここは「寝入り給へるに ~ と見給ふ」というのが骨格。では、寝ている
間に見るものって何? h君?
h:夢。
H:そう、夢だよね。つまり、「寝入り給へるに、(夢に)~と見給ふ」というわけだ。普通は「夢
に」があるから分かりやすいんだけど、ここはそれがないから、この続き方に気づくのはとても難
しいですね。なお、試験の問題などを解く時に、「夢に」があったら、その内容を受ける「と見る」
という表現に注意するクセをつけるといい。他にも、
板書例
夢に→ (夢の内容説明)←と見る。
絵に→ (絵の内容説明)←と書く。
話(噂)に→(話・噂の内容)←と聞く。
手紙に→ (手紙の内容) ←とある。
なんてパターンがある。話を元に戻すと、つまり、この女は夢の中の存在ということになるね。
板書例
<登場人物>
1 光源氏
2 惟光朝臣(乳母子)
3 女君(=夕顔)
4 右近(夕顔の侍女)
5(全体を示す表現=7字)
a
b
c
6 いとをかしげなる女(夢の中の存在)
H:さて、「滝口」は出ているけど、5のところが空白だ。i君、どうでしょう?
i:「この院の預かりの子」
H:どこに出てくる?
i:23ページの7行目です。
H:そう。そこにあるね。で、みんなそこの本文を見て。「この院の預かりの子、睦ましく使ひ給ふ
若き男、また上童一人、例の随身ばかりぞありける」とあるが、あれ? a~dじゃないの、とい
った感じだね。「この院の預かりの子」と「睦ましく使ひ給ふ若き男」、それから「上童」、そして
「例の随身」だもんね。四人いるように見えるでしょ。これは難しくて、他にヒントがなくて判断
のしようがないから答えを言ってしまうけど、「この院の預かりの子」と「睦ましく使ひ給ふ若き
男」は実は同一人物です。よって、登場人物はこうなります。
板書例
<登場人物>
1 光源氏
2 惟光朝臣(乳母子)
3 女君(=夕顔)
4 右近(夕顔の侍女)
5(全体を示す表現=7字)
a 院の預かりの子=睦ましく使ひ給ふ若き男
b 上童
c 随身(ボディーガード)
6 いとをかしげなる女(夢の中の存在)
H:5のa~cをまとめた表現7字がまだだね。これはどう、jさん?
j:見つかっていません。
H:kさんは?
k:私もまだ見つかっていません。
H:では、ヒント。22ページです。見つかった人は手を挙げて…。l君、早いね。
l:「渡殿なる宿直人」
H:正解。ちなみに、l君、「渡殿なる」の「なる」は何?
l:「断定」の助動詞です。
H:うん、間違いではないんだけど、ここはどう訳すかな?
l:「渡殿にいる宿直人たちを」ですか?
H:そう。いま「なる」は「~ニイル」と訳したでしょ。こういう場合は「断定」ではなくて「存在」
といいます。同じ断定の助動詞ですが、「~ニアル」とか「~ニイル」と訳す時は「存在」。助動
詞活用表の「なり」の「意味」のところにも出ているから確認しておいて。
H:とりあえず表が完成したけれど、さっき脇においておいた「滝口」。これは「滝口の武士」とい
う、今で言えば皇宮警察みたいなものの職業の名前で、実はa~cの誰かなんですね。それを最後
に考えたいんだけど、登場人物が分かったところで、主語の移り変わりについても一緒に考えてみ
ようと思う。で、これからAからNまで14箇所を指摘するので、そこに傍線をつけ、その部分の
主語を考えること。そうすると、その過程で、「滝口」が5のa~cの誰の職業かも分かるはずで
す。傍線をつけるのは…(傍線箇所を示す。上の教科書本文参照)。では、ちょっと考えてみて…。
(中略) Aから順に答え合わせ。その際、
①例えば、C「起こし給ふ」とD「参りよれり」、E「のたまへば」とF「言へば」など
の敬語の有無と主語の関係
②接続助詞「を」「に」「ば」逆接、による主語の変化
に注目させる。特に、G「思へり」は、うっかりすると主語を源氏と考えやすいが、敬語
がないこと、さらに「女君いみじくわななき惑ひて」から接続助詞「て」で続く文脈でも
あることから、主語は「女君」である。
H:次はIの「召せば」。では、mさん?
m:源氏。
H:正解。mさん、「召す」は敬語?
m:尊敬語です。
H:そうですね。うっかりすると敬語と気づかない人もいるけど、例えば、食べるの尊敬語は何だっけ? ついでにmさん?
m:「召し上がる」。
H:正解。では、「服を着る」の尊敬語は?
m:「お召しになる」。
H:そう、つまり「召す」は尊敬語なので注意しよう。ここは、「呼ぶ・招く」の尊敬語で、「お呼
びになる」という意味だね。敬語が使われていて、主語は源氏。次にJの「起きたれば」。さあ、
これが重要だ。続きを読めば分かるとおり、ここで起きてきたJの主語にあたる人物と源氏が会話
をするわけだけど、そのJが「滝口」ということだからね。ちょっと時間をとるから、もう一度、
Jの主語を確認して。では、n君?
n:分かりません。
H:5のa~cの誰かだよね。根拠がなくてもいいから、滝口っぽいのは誰だと思う?
n:「上童」かな。
H:違います。童は夜ですからグッスリでしょうね(笑)。それに、一応「武士」ですからね。では、
oさん?
o:随身?
H:なるほど、ボディーガードなら武士っぽい(笑)? でも違う。答えは「院の預かりの子」。で
は、どうしてそう決められるのだろう。次の発言が頼りになるので、その部分を読んで、滝口=院
の預かりの子と決められる理由を説明して。分かる人? では、p君?
p:次の源氏の発言の中に、「随身も弦打ちして絶えず声づくれと仰せよ。」とあります。この人が
「随身」に伝言するわけだから、この人は随身ではなく、上童でもないから、結局「院の預かりの
子」だということになると思います。
H:その通り。実に明快。ね、すっきり決まるでしょ。というわけで、登場人物表の5-aの所に「滝
口」とメモを加えておいて。で、Jの主語も「院の預かりの子」、つまり滝口です。次はK。qさ
ん?
q:源氏。
H:正解。この部分を単語に分けると?
q:「問わ・せ・給へ・ば」
H:「せ」は何?
q:「尊敬」の助動詞。
H:そう、だから、ここは「ソ+ソ」の二重尊敬の形になっているね。他のところの源氏は「ソ」だ
けで扱われているので、源氏以外に偉い人がいるのかなって疑うのが筋だろうけど、他にいないの
で、やはりここは源氏です。ちょっと異質だね。ではL。rさん、ここに含まれている敬語はどれ?
r:「まかで」と「侍り」です。
H:「まかで」は?
r:謙譲語の動詞。
H:誰から誰への敬意?
r:滝口から源氏。
H:よくできました。会話文の中だから、敬意をこめているのはしゃべっている人、つまり滝口だね。
一方、「まかで」は謙譲語だから、「まかで」つまり退出するという動作を受ける人、受ける人っ
ていうのはちょっと微妙だけど、退出されてしまう人ということで、敬意の対象は源氏ということ
になる。この「まかづ」は、「参る」とペアで覚えておくとよい。
板書例
身分の高い所
ケ:参る=参上スル ↑↓ ケ:まかづ・まかる=退出スル・参ル
身分の低い所
*どちらも「身分の高い所」を尊敬する。
「参る」は矢印の向きと敬意が一致、「まかる」は逆なので注意。
H:rさん、もうちょっと付き合って。「侍り」は?
r:丁寧語の補助動詞。滝口から源氏です。
H:正解。丁寧語は聞き手尊敬。だから、会話相手の源氏に対する敬意。で主語は?
r:惟光朝臣です。
H:そう。では次、Mは?
(以下略)
補足
(1)授業は、一年生同様、毎回発問を中心の行うように心がけています。指名は、日付で最初の生徒を決めた後は、席順に当てていきます。上のライブでも、約30分程度で18名指名していますので、だいたい一回の授業(45分)で、2/3~全員が当たることになります。そのこともあって、誰を当てようかと考えることなく、機械的に席順で当てています。
(2)3年生の授業は、文法の知識などが一応身についていることを前提にして、文脈の追跡、つまり、主語の移り変わりを正確に追跡することが中心課題となります。そのため、新しい教材に入る際には、必ず主語になり得る人物、つまり登場人物を最初に確認しています。ずばり、「登場人物を挙げよ」という形で授業をすすめる時もあれば、敬語を考えさせることで、登場人物を意識させることもあります。この場面では、登場人物表の5の部分がちょっと複雑なので、ズバリ登場人物を考えさせる方向で授業を計画しました。
(3)主語を答えさせる(A)~(N)については、他の部分も考えられますが、敬語や接続助詞による主語の移り変わりが確認できる部分を中心に選んであります。