梅雨到来

授業LIVE-3 宮沢賢治「永訣の朝」 (1年現代文・3時間目)


 最後の3時間目の授業の様子です。


<教科書本文>

永訣の朝             宮沢賢治

けふのうちに
とほくへいつてしまふわたくしのいもうとよ
みぞれがふつておもてはへんにあかるいのだ
(あめゆじゆとてちてけんじや)
うすあかくいつそう陰惨な雲から
みぞれはびちよびちよふつてくる
(あめゆじゆとてちてけんじや)
青い蓴菜のもやうのついた
これらふたつのかけた陶椀に
おまへがたべるあめゆきをとらうとして
わたくしはまがつたてつぱうだまのやうに
このくらいみぞれのなかに飛びだした        (ここまで59ページ)
(あめゆじゆとてちてけんじや)
蒼鉛いろの暗い雲から
みぞれはびちよびちよ沈んでくる
ああとし子
死ぬといふいまごろになつて
わたくしをいつしやうあかるくするために
こんなさつぱりした雪のひとわんを
おまへはわたくしにたのんだのだ
ありがたうわたくしのけなげないもうとよ
わたくしもまつすぐにすすんでいくから
(あめゆじゆとてちてけんじや)
はげしいはげしい熱やあへぎのあひだから
おまへはわたくしにたのんだのだ
 銀河や太陽 気圏などとよばれたせかいの
そらからおちた雪のさいごのひとわんを……
……ふたきれのみかげせきざいに          (ここまで60ページ)
みぞれはさびしくたまつてゐる
わたくしはそのうへにあぶなくたち
雪と水とのまつしろな二相系をたもち
すきとほるつめたい雫にみちた
このつややかな松のえだから
わたくしのやさしいいもうとの
さいごのたべものをもらつていかう
わたしたちがいつしよにそだつてきたあひだ
みなれたちやわんのこの藍のもやうにも
もうけふおまへはわかれてしまふ
(Ora Orade Shitori egumo)
ほんたうにけふおまへはわかれてしまふ
あああのとざされた病室の
くらいびやうぶやかやのなかに
やさしくあをじろく燃えてゐる
わたくしのけなげないもうとよ            (ここまで61ページ)
この雪はどこをえらばうにも
あんまりどこもまつしろなのだ
あんなおそろしいみだれたそらから
このうつくしい雪がきたのだ
(うまれでくるたて
こんどはこたにわりやのごとばかりで
くるしまなあよにうまれてくる)
おまへがたべるこのふたわんのゆきに
わたくしはいまこころからいのる
どうかこれが天上のアイスクリームになつて
おまへとみんなとに聖い資糧をもたらすやうに
わたくしのすべてのさいはひをかけてねがふ
                                     (春と修羅)

授業LIVE!

(毎回5分程度で行う漢字小テストは省略)
(H:私、A~P:生徒  指名は、毎時多数を指名するので単純に座席順である)

●「(うまれでくるたて~)」を考える
H:だんだん内容もわかったきたと思うので、また朗読を聞いてみよう。だれか、電子辞書で準備してくれる?
A:じゃ、流します。
H:では、前回の授業でやった、賢治のとし子の死に対する認識の深まりのようなものを考えながら、聞いてみよう。A君、お願いします。
(朗読を聞く)

H:今日は、とし子の最後の発言から。まず、この発言の内容を教科書の注を参考にして説明して。 Bさん。
B:また生まれてくるとしても、今度はこんなに自分のことばかりで苦しまないように生まれてくる。
H:この部分には、賢治が自分で注をつけていて、それは「またひとにうまれてくるときは/こんなにじぶんのことばかりで/くるしまないやうにうまれてきます」となっています。ついでに言うと、「(あめゆじゆとてちてけんじや)」のところにも、「(Ora Orade Shitori egumo)」のところにも、賢治は簡単な注をつけていますが、さて、この言葉でとし子は何がいいたいのだろう? Cさん。
C:みんなの役に立ちたいといったことだと思います。
H:それがよく分かる部分を抜き出すと?
C:「こんどはこたにわりやのごとばかりで」
H:「自分のことばかりで」とあるから、(次に生まれてくるときは)もっと他の人のためになりたいということでしょうね。その思いは賢治に伝わったと思いますが、それが詩のどの表現からうかがえますか? Dさん。
D:「おまへとみんなとに」
H:そう。「みんなとに」という言葉が付け加わっているのは、妹の願いを理解したからでしょうね。ちなみに、この発言はいつなされたんでしょうね? Eさん。
E:場面は外だから、(この発言は)思い出されたものだと思うので、「あめゆじゆ~」よりもやはり前だったのではないかと思います。
H:病状が進んでいくなかで、ふと漏らした感想だったのかも知れないね。

●とし子の言葉と賢治
H:では、今まで学習したことを、とし子の言葉でまとめてみよう。まず、最初の4つの「(あめゆじゆとてちてけんじや)」ですが、これは賢治をどんな決心に導いた? 抜き出してみよう。F君。
F:「わたくしもまつすぐにすすんでいくから」
H:つまり、生き方を決意したわけです。では、「(Ora Orade Shitori egumo)」は賢治の認識にどう影響したかな? 同じく抜き出してみよう。Gさん。
G:「ほんたうにけふおまへはわかれてしまふ」
H:そう。妹の死を確認した。そして、最後の「(うまれでくるたて/こんどはこたにわりやのごとばかりで/くるしまなあよにうまれてくる)」は、賢治をどんな決心に導いた? 抜き出すと。Iさん。
I:「どうかこれが天上のアイスクリームになつて/おまへとみんなとに聖い資糧をもたらすやうに/わたくしのすべてのさいはひをかけてねがふ」
H:つまり、「まつすぐにすすんでいく」が具体化されたわけですね。「アイスクリーム」は今では一般的なおやつだけど、この詩が書かれた当時は、多分高級品だったと思うので、これはそんなに軽いイメージで捉えてはいけないと思います。「みんなとに」となっている点に、賢治の認識の広がりがありますが、教科書に「みんなとはだれのことか」という問題がついているね。この答えは? J君。
J:この世に生きている人、みんなということだと思います。
H:そうでしょう。賢治の童話には動物も出てくるので、まあ、生きとし生けるもの全部といったことかも知れませんが。
K:先生、「天上の」とあるのに、なんで地上の人間みんなということになるんですか? 死んだ人みんなということにはなりませんか?
H:なるほど。実は、そういう解釈をする学者もいるようですが、ここの「の」は「made in」、あるいは、天上から与えられたといった意味でイイじゃないかと思います。目の前の、とし子が食べる最後のあめゆきについて述べているわけだから、それをもう一度天上という舞台に返す必要はなく、そのままこの地上での「アイスクリーム」でイイと思いますよ。

●まとめの「物語文」
H:では、最後にこの「永訣の朝」の物語文を書いてみよう。小説ではないから物語文というのはどうかとは思うけれど、ここには賢治の変化が色濃く描かれていると思うので、それを物語文で表現しようというのが意図。物語文は、「(人物)が~する物語」あるいは「(人物)が~になる物語」という形で、その話の独自の骨格を明確に伝える文だったね。ここでは、主語としては、普通は賢治ととし子が考えられるが、それ以外でも工夫して書いてみてください。できる人は複数書いてみてもいいよ。では、3分間で。

H:何人かに聞いてみよう。参考になるなと思ったものは、自分のメモに付け加えてね。では、K君。
K:賢治がとし子の死を受け入れる物語。
H:基本ですね。イイと思います。Lさん。
L:賢治が生き方を見つける物語。
H:なるほど。Mくん。
M:とし子が賢治に生き方を示唆する物語。
H:逆の視点ですね。Nくん。
N:とし子があめゆきを賢治に頼む物語。
H:ちょっとそれだと弱いかな。
N:じゃあ、とし子があめゆきを食べる物語。
H:弱いです(笑)。O君。
O:賢治が鉄砲玉になる物語(笑)。
H:やくざじゃありませんね(笑)。
O:賢治が雪を天上のアイスクリームに変える物語。
H:いきなりカッコ良くなりました。「変える」の部分は抽象的な意味ですね。ただ、カッコ良すぎて今一つ、初めての人には伝わりにくいかも知れません。P君。
P:陶椀が賢治ととし子の思い出を映し出す物語。
H:お~美しい。とうとう陶椀まで主語になりました(笑)。ただ、映し出すのは確かですが、その思い出にひたる物語ではなく、それが次へと結びついていくわけだから、そっちの方がやはり重要になりますね。

H:ということで、内容を読みとってきました。時間の関係で、雪や空に関する表現を抜き出したり、学習の手引きにある色彩に関する表現を抜き出したりする作業をやっていませんが、これは自分でできると思うので考えみて下さい。あと、とし子の死を扱った一連の詩に「松の針」「無声慟哭」といった作品があり、この詩の出典のところに書かれている『春と修羅』という賢治の詩集の中にありますから、興味があったら読んでみて下さい。
H:では、次からは評論に入ります。今日はここまで。

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2013-03-16

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