春のカメラ沼にはまる
この春は高画質のカメラが続々登場している。
ミラーレス
先ずはソニーのNEX-7。αゆずりのファインダー(EVF)を備え、ボディデザインや浅野忠信のCFもなかなかである。ツァイスをはじめ、交換レンズも充実しつつあるようだ。オリンパスは、PENシリーズに付け加える形で、防塵・防滴性能を高めた本格的OM-Dシリーズをリリースした。昔のOMシリーズを彷彿とさせるデザインはなかなか魅力的だし、こちらも高性能のファインダーを内蔵し、さらに手ぶれ補正・アートフィルターなど、かなり力がこもった出来になっているらしい。高感度性能もNEXに比べて勝っているというレポートがぼちぼち出始めている。
しかし、これらはいわゆる「ミラーレス(一眼)」というカテゴリーに分類される機種で、鳥撮り・孫撮り?などの動体撮影を考える者にとってはあまり食指が動くものではない。高速化されているとはいえ、まだまだAFが動体向きにはなっていないからである。ただ、散歩の友としては、ファインダーもついたし軽量だしで、なかなか魅力的な存在である。
キヤノンとニコンのフラッグシップ
キヤノンとニコンでは、それぞれのフラッグシップ(1DXと4Dだ)がロンドンオリンピックを前にしてリニューアルされた。連写性能や高感度性能が一段と高まり、プロの要求に応える仕上がりになっているらしいが、なにせどちらも60万円近くするモデルであって、ちょっと別次元の話である。
ちなみに、どちらか一方に軍配を上げるとすれば、キヤノンの1DXであろう。ニコンはF8でオートフォーカスが駆動する点を強調するが、F8を常用する(つまり、F4に2倍のテレコンを装着する)のは超望遠の世界であって、我々が日常使う範囲では、F2.8センサーを強化したキヤノンのAFの方が、確実に正確なピントをもたらしてくれるはずである。
キヤノンとニコンのメインストリーム
さて、フラッグシップは置いておくとして、我々の購買意欲を刺激するのは、その弟分の(という括りではなくなりつつあるようだが)、キヤノンの5DMk3とニコンのD800/D800Eである。
●5DMk3
キヤノンユーザーとしては、5DMk3は待ちに待った機種である。現行モデルの5DMk2も、写りそのものには不満はないのだが、
①AFが9点でいかにも古い
②連写が弱い
③ファインダー視野率が100%でない
④シャッターの感触がよくない(レリーズタイムラグも大きい)
といったところが弱点として指摘されてきた。3月31日発売の新モデル5DMk3は、いたずらに画素数を上げることなく、これらの弱点をすべて改善し、しかも、高感度性能をさらに高めているということで、まさに正常進化といった製品になっている模様である。(ちなみに、私は動画はあまり撮らないから、動画については「あればよい」くらいで、よく分からないし気にもしていない…) 特にAFについては、フラッグシップの1DXと同等のものが登載されており、日常的に使うカメラとしては非常にまとまりのよいものになっているようだ。
ところが、この5DMk3があまりウケていない。その大きな原因は「価格」である。5DMk2が出た時には、ボディが約30万円だったのに対して、今回は35万と5万円も高く設定されているのだ(実勢価格は33万円くらいか)。確かにそれだけの進化があるのかも知れないが、ユーザーの予想を大幅に超えていたというのが正直な感想であろう。
そして、もう一つの要因として考えられるのが、ニコンのD800/ D800Eの登場である。
●D800
3月22日に登場したD800(約27万円)は、5DMk2よりもさらに前に登場していたD700のモデルチェンジ版で、こちらもニコンユーザーにとっては待ちに待ったモデルといえる。動画機能が新たに付け加わり、また、弱点と言われたファインダー視野率が95%から100%となったこと、AFもフラッグシップと同じモジュールを使っていることなど、5DMk3同様、ユーザーの意見を踏まえた正常進化版となっている。
ただし、5DMk3と異なるのは、大幅な高画素化が行われていることで、何と3630万画素となっている(5DMk3は2230万画素)。フルサイズモデルとしては最も画素数が多い。
ただし、これは一長一短でもある。というのも、これだけの画素から生成されるファイルサイズの莫大な画像を処理しようとすれば、当然のことながらパソコンのパワーが要求されるし、また、高感度性能がどうなのかという心配も出てくる(同じ大きさの映像素子に多くの画素を詰め込むと、一つ一つの画素が相対的に小さくなり、光を受け取る量が減ってノイズが増えるらしい)からである。
しかし、実写レポートが伝えるところによれば、パソコンパワーもjpeg撮影なら大して気にならないということであり、また高感度性能に関しても、画素数を抑えることで高感度を達成した前モデルのD700と「同等」といった評価が出されている。こうなると、この3630万画素が魅力的に見えてくるのである。
●D800E
このD800にはさらにオマケがある。4月12日発売予定のD800Eというモデルが用意されているのだ。こちらはD800のローパスフィルターの働きを制御したモデルで、どういう意味があるのかということについて、GANREFというサイトの解説を引用してみよう。
「D800E」は、光学ローパスフィルターの働きをなくすことによって、より高い解像感を実現するために設計されたモデルだ。光学ローパスフィルターはモアレや偽色を抑制する役割を担っているが、相反的に解像感を若干低下させるという特性を持っている。「D800E」では、その働きをなくすことによって、レンズからの光をより直接的にフォトダイオードへと導くことで、3,630万画素の解像力を最大限に引き出しているという。ただし、被写体や撮影条件によってモアレや偽色が「D800」よりも目立つことがある。「D800E」のそのほかの機能、性能は「D800」と同一となっている。
このD800Eがほぼ5DMk3と同じ値段(か若干安い)なのである。上の記事を読むと、何となくワクワクしてきて、正常進化して不必要な画素を増やさなかった5DMk3の正統さよりも、最高の画素数を備えていて高画質化が期待できる、さらに値段も安いD800Eの方に興味がいってしまうのが人情というものだろう。
いわゆる価格比較サイトでは、高画素化はもはや不用であるという議論がけっこうなされていた(その証拠?に、フラッグシップの1DXは1810万画素、D4は1620万画素に過ぎない…)のだが、D800/D800Eが登場してからは、高画素を歓迎するような論調に変わってきたからたいした破壊力である。
カメラ沼
で、私はどうしたのか? D800Eを予約した。ははは…。
5DMk2の画質には不満がないし、デザインがカッコイイと気に入っているのに対して、D700は(あまり使わないとはいうものの)動画機能が登載されていないこともあって、できたらリニューアルしたいと思っていたのが根本の理由であるが、それ以上に、上に書いたようなドキドキ感(高画素! ローパスフィルターレス!)にやられてしまったといえよう。もちろん、プロでもない者がD800Eの力を引き出せるかどうかは定かでない…というか、D800で撮った写真と区別さえつかないかも知れないが、写真が道具に依存するものであり、その道具によって結果が変わってくる可能性があるとしたら、まあ、新しい技術を使ってみたいと思うのが、新しもの好きの宿命なのである。
かくして私は春の沼に足を踏み入れ、そして、沼はさらに果てしない深みへと私を導くのであった…。