秋になる


日比谷高校の3年生「古典B」の授業



 日比谷高校では、3学年の文系必修選択科目「古典B」5単位を用意している。ここ数年は、8クラス320名+αのほぼ5割半が理系、4割半が文系といった感じで、この「古典B」は地歴・公民科目の選択をもとに、4~5講座が開講されている。5単位のうち、3単位が古文、2単位が漢文で、定期考査は両方合わせて100点満点、90分で実施している。

 さて、古文だが、2期制の前期中間考査までに『枕草子』(回想章段)を扱い、その後、前期期末考査までに『大鏡』を扱う。続いて、後期中間考査までが『源氏物語』で、その後は入試問題の演習となる。

 古文が読めない理由は、単語でも文法でも古典常識でもない。もちろん、それらが読解力の基礎をなすわけだから、一定以上のそれらの知識の蓄積がないと読めないのはもちろんだが、それらの知識が一定以上あったとしても初見の文が読めるとは限らない。
 その大きな要因は、「一文が長く」、「文の途中で主語が変わっていくにも関わらず」、「その主語が明示されない」という、古文の特色が挙げられる。もちろん、この特色は、「一部のハイブローな人々の日常のおしゃべり」という、有名古典の本質とリンクする。自分たちの共通認識基盤となっている常識(一部は「古典常識」という形で学ぶことになるが…)は書かないわけだし、現在で言えば会話の途中にシェークスピアの有名な台詞を交えたりする感覚で和歌の一節が引用されたり、更に言えば、「業界用語」みたいなものが文の中に登場したりするのである。人物を、地位や居所で婉曲表現するのも混乱のもとになる。
 そこで、授業では、それらの背景知識を読みとったり解説したりしながら場面設定を理解し、その上で、徹底的に「主語の追究」をすることが中心となる。主語を正確に捉えて、話の展開を正確にトレースすることが、すべての始まりとなるからである。

 そこで、最初に『枕草子』を扱う。というのも、『枕草子』では極めて敏感・正確に敬語が使われているため、敬語の知識を整理して、それを主語の追究に結びつけることが可能となるからである。
 次に、『大鏡』を使って、接続助詞(「を」「に」=基本的に主語が変化する、「ば」「逆接」=50%の確率で主語が変化する)で文をパーツに分解しながら、主語を追究するテクニックを身につける。『大鏡』は、超高齢の老人大宅世継(190歳)と夏山繁樹(180歳)の語り(それゆえ、体験過去の助動詞「き」が使われて歴史をリアルに感じさせる)であるがゆえに、敬語に関しては『枕草子』ほど正確には使い分けがなされていない。しかし、『枕草子』学習後であるから、その応用編として解説が可能である。一方、登場人物が多く、その行動も明確であるため、ユニークな行動を通して人物像を考えたりしながら、主語の追究をしてゆく題材としてうってつけなのである。
 前期には、この「敬語」と「接続助詞によるパーツ分解・文脈追究」を授業の骨格とし、その合間に、センター試験の識別問題に向けて、助動詞などの知識を整理しながら読解力を高めてゆくことになる。
 こうした基礎作業をした上で、後期は『源氏物語』を題材に、知識を総合しながら、形容詞・形容動詞などの単語・イディオムレベルの訳を洗練することを通して、国公立後期試験の記述式問題への対応を目指すのである。

 ここでは、前期期末考査を前に、『大鏡』の復習に使用したプリントを具体的に掲載してみよう。このプリントでは、
(1)〇囲いの数字が文を表している。これを見ると、例えば「道長と隆家」という教材が、たった3つの文から成り立っていることが一目で分かる(一文の長さも明瞭になる)。
(2)動作主となりえる人物を傍線で囲み、主語の変化を辿りやすくしてある。
(3)接続助詞(「を」「に」「ば」逆説)のところで文を区切り、主語の変化を辿りやすくしてある。
(4)その他、引用の「と」に注目させたり、係り結びに注目して挿入句を指摘したりしてある。
(5)敬語や助動詞、単語などは、その都度確認するので、特に明示はしていない。

 このプリントを見て頂ければ、前期におおよそどのようなことを目標として授業を展開しているのか、ご理解いただけるのではないかと思う。古文の読解指導の参考にして頂ければ幸甚である。


pdfファイルで 約570KB です。ダウンロードは 「こちら」 から。


2017-03-26



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