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若紫巻「北山の垣間見」授業資料(指導案など)


●定番教材である『源氏物語』(若紫巻)「北山の垣間見」の指導案などです。
 まず、主語の変化をたどることをことを目的とした「1 本文分析」(接続助詞「を」「に」「ば」「逆接」に注目して、文章を加工したもの)を挙げます。pdf版の方が、接続助詞がゴシックになっていて見やすいと思います。なお、この本文分析については、教育出版「精選古典B」の中古~中世の掲載作品すべてについて、指導書に掲載してあります(一太郎・ワードのファイルにもしてあります)ので、どうぞご採用をよろしくお願いいたします(笑)。
 次に、「授業LIVE」の形にしようかと思っていたのですが、どうしてもやる気をおきず、授業のために用意した発問と板書用のメモにちょっと手を入れた「2 発問例」「3 板書例」を掲載しました。
 桐壺冒頭をこの教材の前に扱っているため、第一時では、ここまでのあらすじを説明した上で、第一・第二段落を音読して大ざっぱに場面を掴ませ、教科書掲載の「源氏物語絵色紙帖」の挿図などを使いながら、登場人物を確認し、残り時間で垣間見について解説してあります。ここに挙げた指導例は、それを受けた二時間目のもので、第一・第二段落の具体的な読解作業の様子を示しています。「2 発問例」「3 板書例」とともに、見学して下さった先生のメモ(「4 見学メモ」)を見ていただくと、授業の雰囲気が伝わるではないかと思います。
 なお、「3 板書例」と「4 見学メモ」の内容には、多少の違いがありますが、実際の授業は「4 見学メモ」に再現されているので、生徒たちの様子をみながら変更したということです。
 読みにくい画面だとは思いますが、ご参考にしていただけると幸甚です。


1 本文分析

「北山の垣間見」

①日もいと長きにつれづれなれば、
 ( S )夕暮れのいたう霞みたるに紛れて、かの小柴垣のもとに立ち出で給ふ。
②人々は帰し給ひて、惟光の朝臣とのぞき給へば、
 ただこの西面にしも、持仏据ゑ奉りて行ふ尼なりけり。
③( S )簾少し上げて、花奉るめり。
④中の柱に寄り居て、脇息の上に経を置きて、いとなやましげに読み居たる尼君、ただ人と
 見えず。
⑤四十余ばかりにて、いと白うあてに痩せたれど、
 頰つきふくらかに、目見のほど、髪のうつくしげに削がれたる末も、なかなか、長きよりも
 こよなう今めかしきものかなと、( S )あはれに見給ふ。

⑥清げなる大人二人ばかり、さては童べぞ、出で入り遊ぶ。
⑦中に、十ばかりにやあらむと見えて、白き衣、山吹などの萎えたる着て走り来たる女子、あまた
 見えつる子どもに似るべうもあらず、いみじく生ひ先見えてうつくしげなる容貌なり。
⑧髪は扇を広げたるやうにゆらゆらとして、顔はいと赤く摺りなして立てり。
⑨「何ごとぞや。
  童べと腹立ち給へるか。」
 とて、尼君の見上げたる〔顔〕に、( S )少しおぼえたるところあれば、
 子なめりと( S )見給ふ。
⑩( S )「雀の子を犬君が逃がしつる。
 伏籠の内に籠めたりつるものを。」
 とて、いと口惜しと思へり。
⑪この居たる大人、
 「例の、心なしの、かかるわざをしてさいなまるるこそ、いと心づきなけれ。
  ( S )いづ方へかまかりぬる。
  いとをかしう、やうやうなりつるものを。
  烏などもこそ見つくれ。」
 とて立ちて行く。
⑫髪ゆるるかにいと長く、目やすき人なめり。
⑬少納言の乳母とぞ、人言ふめるは、この子の後見なるべし。

⑭尼君、
 「いで、あな幼や。
  言ふ効なうものし給ふかな。
  おのが、かく、今日明日におぼゆる命をば、( S )何とも思したらで、雀慕ひ給ふほどよ。
  『罪得ることぞ。』と、常に聞こゆるを、
  心憂く。」
 とて、「こちや。」と言へば、
 ( S )つい居たり。

⑮( S )頰つきいとらうたげにて、眉のわたりうちけぶり、いはけなくかいやりたる額つき
  ・髪ざし、いみじううつくし。
⑯( S )ねびゆかむさまゆかしき人かなと、目とまり給ふ。
⑰さるは、限りなう心を尽くし聞こゆる人にいとよう似奉れるがまもらるるなりけりと思ふにも、
 涙ぞ落つる。

⑱尼君、髪をかき撫でつつ、
 「梳ることをうるさがり給へど、
  をかしの御髪や。
  いとはかなうものし給ふこそ、あはれに後ろめたけれ。
  かばかりになれば、
  いとかからぬ人もあるものを。
  故姫君は、十ばかりにて殿に後れ給ひしほど、いみじうものは思ひ知り給へりしぞかし。
  ただ今、おのれ見捨て奉らば、
  ( S )いかで世におはせむとすらむ。」
 とて、いみじく泣くを( S )見給ふも、すずろに悲し。
⑲幼心地にも、さすがにうちまもりて、伏し目になりてうつ伏したるに、
 こぼれかかりたる髪、艶々とめでたう見ゆ。
⑳   生ひ立たむありかも知らぬ若草を後らす露ぞ消えむ空なき
㉑また、居たる大人、「げに。」とうち泣きて、
    初草の生ひ行く末も知らぬ間にいかでか露の消えむとすらむ
 と聞こゆるほどに、僧都、あなたより来て、
 「こなたは、あらはにや侍らむ。
  今日しも、端におはしましけるかな。
  この上の聖の方に、源氏の中将の、瘧病まじなひにものし給ひけるを、
  ( S )ただ今なむ聞きつけ侍る。
  ( S )いみじう忍び給ひければ、
  ( S )知り侍らで、ここに侍りながら、御訪ひにもまうでざりける。」
 とのたまへば、
 ( S )「あないみじや。
  いとあやしきさまを、人や見つらむ。」
 とて、簾下ろしつ。
㉒( S )「この世にののしり給ふ光源氏、かかるついでに見奉り給はむや。
  世を捨てたる法師の心地にも、いみじう世の憂へ忘れ、齢延ぶる人の御ありさまなり。
  いで、御消息聞こえむ。」
 とて立つ音すれば、
 ( S )帰り給ひぬ。

㉓( S )あはれなる人を見つるかな、
 かかれば、
 この好き者どもは、かかる歩きをのみして、よく、さるまじき人をも見つくるなりけり、
 たまさかに立ち出づるだに、かく思ひのほかなることを見るよと、をかしう思す。
㉔さても、いとうつくしかりつる児かな、
 何人ならむ、
 かの人の御代はりに、明け暮れの慰めにも見ばやと思ふ心、深うつきぬ。

本文分析pdfはこちら → 「若紫本文分析


2 発問例

(前時の復習として)
1 見る側の登場人物は?
  →光源氏 惟光
2 見られる側の登場人物を3つのグループに分けて挙げると?
  →A 尼
    B 清げなる大人二人 (少納言の乳母)
    C 童べ (犬君・女子)

(場面設定に注意して第一・第二段落を音読する)

(場面設定の大枠を理解する)
3 5W1Hとは?
4 冒頭部分(第一文)から、見ている光源氏たちに関する5W1Hを(こじつけもあ るが)見つけ出すと?
 → where  かの小柴垣  
   when  夕暮れ
   what  立ち出で給ふ→のぞき給へば 
   who   光源氏(惟光)
   why   日もいと長きにつれづれなれば
   how   いたう霞みたるにまぎれて
5 季節はいつ? 春の夕暮れのイメージは?
 →春  ゆっくりと楽しむ夕暮れ
6 同じく、第二文から見られている側について5W1Hを整理すると?
 → where  この西面
   when   (夕暮れ)
   what   行ふ 花奉るめり 
   who   尼
   why    (夕暮れ)
   how   持仏据ゑ奉りて
7 「行う」の意味は? 「持仏据ゑ奉りて」から敬語を抜き出し、敬意を考えると?
 →勤行する。 奉り=謙譲語の補助動詞、持仏に対する敬意
8 なぜ「西面」の部屋で勤行するのか?
 →西方浄土(阿弥陀如来がすむ極楽浄土) 

(場面設定の妙を考える)
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9 教科書の挿絵から場面を具体的に考えるが、夕暮れだから、69ページの挿絵でいうと、
 太陽はどこにある?
 →源氏の背中側
10 源氏から尼君たちの姿は見えるか、見えないか。
 →傾いた太陽の光がスポットライトのような役割を果たし、部屋の奥までよく見える。
11 尼君たちから源氏の姿は見えるか、見えないか。
 →傾いた太陽の光が逆光となって、覗いている側は見えにくくなっている。
12 垣間見に有利な条件は他に何がある?
 →(自然)かすみ
  (人事)花奉る

(垣間見に伴う表現、推定の助動詞を理解する)
13 第一段落の五つの文の文末のうち、垣間見であることがよく分かるものはどれか。
  一文節で抜き出しなさい。
 →「奉るめり」「見えず」「見給ふ」
14 推定の助動詞を他に二つ挙げなさい。
 →めり(視覚による推定)
   なり(聴覚による推定)
   らし(根拠のある推定)

(第一段落を現代語訳する)
15 (二文目まで訳した後)源氏が垣間見をする時、どのようなことを期待したか?
 →若い高貴な女性がいること
16 実際に目にしたのは?
 →年寄りの尼
17 「なりけり」の「けり」の意味は? 
 →詠嘆
18 この源氏の詠嘆(気づいた感動)の内容を説明すると?
 →お目当ての女性ではなく、高齢な尼でがっかりした。
19 (三文目を訳した後)「めり」の意味は?
 →視覚による推定。ここは垣間見していることを前提に、「花を差し上げるのが見える」
  くらいの訳が自然。
20 (五文目を訳した後)源氏は尼を見たことがなく、新鮮な驚きを感じているが、
   そのことが分かる部分を抜き出しなさい。
 →なかなか長きよりもこよなう今めかしきものかな

(第二段落を現代語訳する)
21 (第二段落を訳した後)なぜ、源氏は一人の女子に注目することになったと思うか。 抜き出しなさい。
 →走り来る(*源氏物語で唯一の走る姫君)

発問例pdfはこちら → 「発問例


3 板書例

<登場人物>
 ・源氏
 ・惟光の朝臣(源氏の乳母子)
 ・尼
     なやましげ
     ただ人と見えず
     四十余ばかり
     いと白うあてに~今めかし
 ・清げなる大人二人
   少納言の乳母(女子の後見)
     髪ゆるるかにいと長く、目安き人なめり
 ・童べ
 ・犬君
     例の心なし
 ・女子
     十ばかり
     白き衣、山吹などの萎えたる着て走り来たる
     あまた見えつる子どもに似るべうもあらず~うつくしげなるかたち
     髪は、扇を広げたるやうにゆらゆらとして
     顔は、いと赤くすりなして
     尼君の見上げたるに、少しおぼえたるところあれば、子なめり

<場面=見ている側>
 where   かの小柴垣のもと
 when   夕暮れ
 what   立ち出で給ふ → のぞき給へば
 who    光源氏(惟光)
 why    日もいと長きに、つれづれなれば
 how    夕暮れのいたう霞みたるにまぎれて
<場面=見られている側>
 where   この西面
 when   夕暮れ
 what    行ふ 花奉る
 who    尼
 why    夕暮れ
 how    持仏据ゑ奉りて

板書例prfはこちら → 「板書例


4 見学メモ

●授業を見学して下さった先生のメモです。
  メモ左下にある「<かいまみプリント>」は、5資料に掲載した『王朝語辞典』の抜き刷りです。
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見学メモpdfはこちら → 「見学メモ


5 資料

(1)学習指導案pdf → 「「北山の垣間見」2時間目学習指導案

(2)「垣間見」(『王朝語辞典』東京大学出版会、2000)
垣間見.jpg
「垣間見」pdfはこちら → 「垣間見


2019-03-27



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