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アジサイ

助動詞の入門期の指導について(1年生向け)

この指導案の概要

 日比谷の1学年古文では、前期中間考査(6月第一週)までに用言(動詞・形容詞・形容動詞)について指導することになっている。その後、助動詞の学習に入り、前期期末考査(9月第二週)までに、過去と完了の助動詞について基礎的理解をさせることが目標となっている。ここでは、助動詞の導入指導について、その骨格について報告してみたい。

1 付属語の重要性を理解させる。

  ①「僕」「弟」「本」「読む」の四語を使って、できるだけたくさんの文を作らせる。
   <例>僕は弟の本を読む。 僕の弟は本を読む。 僕よりも弟が本を読む。
  ②補った成分が、助詞であることを指摘させる。(例えば「格助詞」の「格」は、「語と語の関係」といった意味であることを紹介する。)
  ③助詞が論理を担ったり、意味を付け加えたりしていることを理解させる。
  ④「僕は弟の本を」に、「読む」をさまざまに言い換えたものをくっつけて、たくさん文を作らせる。
   <例>僕は弟の本を読まない。  僕は弟の本を読むだろう。  僕は弟の本を読まないだろう。
  ⑤補った成分が、主として助動詞であることを指摘させる。
  ⑥助動詞が判断や認識を担っていることを理解させる。
  ⑦古典を理解する上で、助動詞・助詞の理解が重要になることを理解させる。
  ●ここで重要な点は、日本語では骨格を自立語が担うが、そこに論理や判断を付け加える重要な働きをしているものが付属語であることを理解させ、学習の
  動機付けをしっかりと行うことである。

2 助動詞学習のポイントを理解させる。

  ①教科書(または副読本)を使って、助動詞を学習する際には、
   「A 接続」
   「B 活用」
   「C 意味」 
   (その他、大分類としての「助動詞の種類」)
   の理解が必要になること、その全てが「助動詞活用表」にまとめられていることを理解させる。
  ②「B 活用」については、「活用の型」の欄に注目させ、「四段型」「サ変型」「形容詞型」「形容動詞型」など、既習の知識が生きることを再確認するとともに、
  古文作文をするわけではないから、例えば「命令形がない」といったことは、最終的に覚えればよいといったレベルであることを伝える。
  ③「C 意味」については、現代語訳する必要上便宜的に分けたものであり、例えば「む」であれば、「未来においてそうなるだろうという判断・認識を表す」という
  基本をまずしっかりと理解することが重要であることを強調する。その上で、動作主や文脈の応じて訳し分けていくやり方については、具体的な教材を使って学
  習していくことを伝えて置く。
  ●ここで重要な点は、最終的には暗記するという目標を示すことと、確かに暗記は大変であるが、さまざまな文法の知識が結びつくことによって、それが徐々
  に容易になっていくことを伝えることである。例えば、「A 接続」は、何度も助動詞活用表を眺めていれば、活用表全体の見た目が記憶できるようになってき
  て、その助動詞の活用表における位置から思い出せるようになるし、「B 活用」は、「活用の型」で用言の知識が応用できる。また、「C 意味」は、例えば「推
  量(~ダロウ)」という意味(訳し方)は色々な助動詞に出てくるから、助動詞の学習が進めば進むほど、覚えやすくなるといったことを例にするとよいだろう。

3 具体的な指導の前に

  ①重要な部分を単語分けする。ちなみに、助詞や助動詞の知識があるから正確に品詞分解できるのであり、1学年のこの段階では、雰囲気で分けられればよ
  い。それを繰り返すことで慣れることが大切である。
  ②その際、「助動詞」であるから、「動詞の下にある」ことが基本ということを押さえさせ、その過程で、名詞に下にくるのは断定の「なり」「たり」であることを理解
  させる。
  ③学習の際、つねに助動詞活用表を開いておき、何度も参照することで、視覚的に理解をすすめることの重要性についても強調しておく。
  ④語の「上」「下」を見ることの重要性を確認する。「上」を見ると「A 接続」と関係し、「下」を見ると「活用形」が分かることを確認するのである。
  ●ここで重要な点は、この「上」「下」を見るということを意識的に行わせることである。この意識を授業中に高めることが、文法を理解させ得意にさせる秘訣の
  一つである。

4 具体的な指導の例

  <例文> 雨に向かひて月を恋ひ、垂れ込めて春の行方知らも、なほあはれに情け深し。咲きべきほどの梢、散りしをれたる庭などこそ見どころ多けれ。(『徒然草』第一三七段)

  ①A「春の行方知らも」とB「咲きべきほどの梢」を単語に分けさせる。
  ②両者に共通に出てくる「ぬ」について助動詞活用表から探させる。
  ③その際、いきなり助動詞活用表の全体を見て探すのではなく、探すタクティクスを考えさせる。
  ④Aの「知らも」の「ぬ」のタクティクス
    1 「下」は「も」で情報がない(「も」の接続については未学習)
    2 「上」を見ると「知ら」であり、ラ行四段活用の未然形であることが分かる。
    3 助動詞活用表の未然形接続の助動詞が集められている部分から「ぬ」を探す。(ほとんどの助動詞活用表は、先ず「接続」で分類し、その中を「助動詞
    の種類」で分類して並べてある。その未然形接続の助動詞が集められた部分から探させるわけである。)
      (→これを「縦に探す」という)
    4 打ち消し「ず」の連体形であることが分かる。
  ⑤Bの「咲きべき」の「ぬ」のタクティクス
    1 「下」は「べし」
    2 「べし」の接続を助動詞活用表で調べさせると終止形であることが分かる。
    3 助動詞活用表の終止形の欄を横に見て「ぬ」を探す。
      (→これを「横に探す」という)
    4 完了の助動詞(この場合は確述)の終止形であることが分かる。
    5 ちなみに「上」を見ると「咲き」とカ行四段活用の連用形になっており、接続も問題ないことが確認できる。
  ●ここで重要な点は、助動詞活用表を「縦に探す」ことと「横に探す」というタクティクスを、指導の導入段階で常に意識させることである。この意識が、助動詞
  活用表の構造の理解と、個々の助動詞の確実な理解へを結びつくのである。

5 終わりに

 助動詞の学習には、どうしても暗記が必要になる。そのため、大切なことは
  ①暗記の動機付けをし、目標を示す
  ②暗記の根本にある理解すべき事項を明確に伝える
  ③知識を関連づけることで、暗記の負担を減らす
  ④助動詞の理解が、正確な読解・鑑賞に結びつくこと、それ故に、古典がおもしろくなることを、常に具体的な作品の読解作業の中で伝える
といった指導を工夫することだろう。英語などに比較すれば、暗記事項は極めて少ないはずである。助動詞活用表をつねに机上に広げることで、先ず目から慣れさせて苦手意識や大変そうだといった意識を取り除くような指導を工夫するとともに、それぞれの作品が持つおもしろさを伝える指導過程の研究を大事にしたい。