50mmの話
私の好きな写真家の一人であるハービー・山口さんが、雑誌「CAMERA Magazine」9月号の「ハービー・山口の想いを伝える写真」というコラムで、
確か高校の社会の先生だったと思う。授業中に何のきっかけだったかは忘れたが、突然授業の本題とははずれて写真の話を始めた。「写真の基本は標準レンズ、50mmね。その使い方のコツは一歩一歩被写体に踏み込んでいくこと」。当時写真部の部長を務めていて、プロになりたい意思を強く持っていた僕は、この言葉をいまでも記憶の隅にしまっている。
と書いていらっしゃる。ふむふむ。触発されて? 私も50mmについて書いてみよう。
マクロと望遠
私が写真を撮り始めたのは、1995年以来開設しているホームページを華やかにしたい、つまり「美しいモノ」を撮って、ホームページを多少とも華やかにしようと思ったからである。だから、当初の主な撮影対象は花で、初めて一眼レフカメラを手に入れた時にも、主としてマクロレンズを使っていた。その後、いきつけの石神井公園でカワセミに出会ってからは、その宝石のような姿に魅せられて、何とかその美しさを捉えようと望遠レンズや高速連写のできるカメラがほしくなり、以後、レンズ沼・カメラ沼にどっぷりとはまってしまったわけである。
マクロレンズと望遠レンズに共通することは、ただ一つの対象(つまりテーマ)を大きく捉えるということであり、この二つのレンズを使ってばかりいて、空間を広く大きく捉える広角レンズには馴染むことがなく過ごしてきた。だから、レンズ沼にはまりつつあった当初、50mm相当のレンズ(シグマ30mmF1.4 DC)を買ってみたりしたが、50mmであってもその広い(実はそんなに広くはないのだが…)画角に捉えるべきものを整理しきれずに、ちょっと自分には使いこなせないなぁと思っていたのである。
広角
それが大きく変化したのは、旅行にカメラを持参するようになったからである。実は、我が家のカメラ係は長らく主人であって、私は専ら撮られる方?専門だった。だから、我が家の子どものアルバム写真は、ほぼ全て主人が撮ったものなのである。ところが、自分でもカメラになじむようになり、旅行にも自分でカメラを持参するようになると、目の前に広がる大きな風景を捉えるためには、どうしても広角側で撮らざるを得ない、というか、広角側で撮りたくなるのである。こうして、だんだんと広角にも慣れるようになってきたのである。
特に、初めてカメラを携えて出かけたイギリスで、日本とは異なる美に接したことは、新たな「美しいモノ」を見つける喜びとなって、以後、風景の撮影が旅行の大きな楽しみとなっている。
孫写真と50mm
息子が結婚して孫が生まれると、今度は孫を撮るようになった。今まで、花や自然・風景などの「美しいモノ」を撮ってきたわけだが、人間を撮ってみると、その美しさに改めて驚かざるを得ない。「その人の生きた歴史が表情となって画面に現れる」などと格好イイことを言いたいのではない。もうズバリ、若い娘は美しいのである(笑)。みずみずしい肌の張りや艶、瞳の透明感、光に浮かぶ髪の輝き…こんな美しくて素晴らしいモノが自分の身近にあるということに気づけたのは、私にとってカメラを始めたことによる大きな収穫である。
で、人物を撮るようになって多様するようになったのが50mmなのである。よくポートレートには85mmが使われるが、孫と遊びながら近くで撮るにはむしろ50mmくらいの方がよい。そして、上の引用の
その使い方のコツは一歩一歩被写体に踏み込んでいくこと。
というのが名言であることが分かるようになってきたのである。
孫を撮る時は、専ら絞りを開放近くに設定することで、背景をぼかして人物を浮かび上がらせる。目だけにピントが合うようにして、顔全体の印象もとろけさせる。逆光をうまく使うことで、肌や髪の美しさを表現する…といったことを意識するようにしている。とはいっても、老眼の身、動き回る孫を、絞り開放の薄いピントできっちり捉えるのは至難の業であるし、孫といるだけで楽しいから、実際はうまく撮ろうなどとはあまり意識できなくなってしまいがちである(笑)。ただ、決定的瞬間を逃したくないと思いながら、日々精進?である。
50mmレンズ
その際、最も多様するのが「キヤノンEF50mmL F1.2」で、これを1DXにつけて使う。5DMk3につける場合もあるが、正確なAF性能はやはり1DXが一枚上。腕がない分、カメラのAF性能に頼らざるを得ないわけである(ジッとしていない小さい子どもの決定的瞬間を撮りたいなら、できる範囲で機材に投資するのが近道であると私は思う)。キヤノンの誇るLレンズであり、うまく撮れた時…というのが、実はそのピントの薄さから滅多にないのだが、美しさは比類ないといえよう。
もう一つ好きなレンズは「シグマ50mm F1.4」で、これはニコンマウントを買ったのでD3Sにつけて使う。キヤノンがあえていうと「コッテリ」とした印象(とはいっても下品な派手さではない)の仕上がりになるのに対して、この組み合わせで撮ると「スッキリ」とした印象の仕上がりになり、その透明感みたいなものに惹かれることもあるのである。
ただ、一般的には、ポートレートにはニコンではなくキヤノンの絵作りが向いているらしく、ポートレートを中心とした雑誌などを立ち読みしても、ほとんどの作品が1DXか5DMk3で撮られていて(あとはライカM9とか…)、ニコンを使っているプロ写真家は少数派のような印象を受ける。ただ、プロの作品だからライティングや後処理もしっかりなされているのだろう、D800Eなどで撮影された作品の中には、えも言われぬ立体感や空気感を醸し出しているものもあるし、最近発売されたばかりのD810は「ニコン最高画質」をうたっているので、その評価も変わっていくのかも知れない。
50mmでは、あとキヤノンマウントの「ツァイス50mm F1.4」を持っているが、これは若気の至りで買ったレンズ(笑)で、しかもMFということもあり、老眼になった最近は殆ど出番がない。しかし、そのボケ具合などは定評があり、そのうち再挑戦してみようと思って秘蔵している。
フォーサーズ用では、「ライカ25mm F1.4」を持っている。が、最近フォーサーズ(私はオリンパス)は旅行用に高倍率レンズとともに持参するだけで、普段はあまり使わなくなってしまったこともあり、防湿庫の隅で静かに暮らしている。
最近のメインカメラ Fuji X-E2、X-T1用には、「XF35mm F1.4」という素晴らしい50mm相当のレンズを持っている。ただ、どちらもAF性能がキヤノン機には劣るため、充分に活躍させることができていない。静物を撮った時の素晴らしさはもう垂涎モノだから、うまく活用する場面を工夫したいと思っている。
50mmカメラ?
レンズではなく、50mm相当の単焦点レンズをつけたコンパクトデジカメも愛用している。その一つが、最近発売されたシグマの「dp2 quattro」で、個性的で使いにくいカメラとして定評がある(笑)が、そのスタイルの斬新さと、独自のセンサーに対する期待もあって購入した。まだその本来の性能を引き出すまでには至っていないが、何となく「このカメラでイイ写真を撮ってみたい!」という気にさせるカメラである。専用のRAW現像ソフトの「SIGMA PhotoPro6」も早く使いこなせるようになりたいところである。
もう一つは、フジの「X100」(間もなく新型の「X100T」が発売されるそうだ)。ファインダーの見えが最高であるという評判を信じて5年前くらいに購入した35mmレンズのカメラであるが、これまた(キヤノンやニコンのカメラに比べると)機械として使いにくい上に、ファインダーには当然のことながらパララックスがあり、しかも35mmという画角が私には難しいこともあって使いこなせないでいたが、最近(キヤノンでの孫撮影以外は)フジの一眼をメインに使用していることもあり、再び使い始めている。しかも、オプションで用意されているテレ・コンバーターが優秀で、F値(F2)を変えずに50mmの画角にすることができるのである。35mmを勉強しながら、大好きな50mm相当のカメラとしても活用している。