最近は５類への移行と室内でのマスク不要が並行して語られることが多くなりました。しかしこれはとてもおかしな話です。インフルエンザは５類ですが、「５類だからマスクはいらない」などという議論はありませんでした。風邪をひきたくないからマスクをしたら「気にしすぎだ」と言われたり、逆にしないことに対し「気が緩んでいる」「高齢者の命を大切にしていない」と言われることもありませんでした。
　マスクはそこまで大したものではなかったのです。
　しかしコロナ禍を経た現在は、マスクは大変に「大したもの」になってしまいました。その着用の有無が、その人の政治的立場、道徳観、知性を判別するツールになるほどに。
　なぜマスクはそこまで「大したもの」になってしまったのでしょう。
　私はその一つの理由は「感染予防はマナーです」という形でマスクの着用を推進したことにあると考えています。マナーは根拠に納得して実践するようなものではありません。その根拠を問うようなことも、研究でもない限りされません。
　なぜならマナーとは、それぞれの共同体が定めたコミュニケーションを円滑にするための一式のルールであり、なぜそうなのかと問うことにそれほどの意味はないからです。ここではそういう風に決まっているから、そういう風に振る舞う。マナーとは本来そういうものです。
　だからこそ、共同体ごとにマナーが異なっても、それらのマナー一つ一つに科学的根拠を求め、根拠があるから続けよう、ないからやめましょうなどということも起こりません。
　ですがマナーはその根拠に拘らず「大したもの」なのです。マナーを守れる人は、その共同体の中で一人前の人として認められる。守れない人は共同体の安心を脅かしかねない危険な人として見做される。
　電車の中で大声で電話をしたり、列に横入りしてくる人がどのような人とみなされるのかを思い返していただければ、その意味はわかりやすいと思います。
　マスクをめぐる分断や混乱の１つは、マスクの科学的根拠を示しつつ、他方でそれを「マナー」として形で押し広げた点にあるでしょう。マナーになった時点で、科学云々は関係ないのに、それをミックスしてしまったのです。
　この3年間でマスクは突如として「マナー」の仲間入りを果たしました。マスクを外すことはマナーを守らないことですから、マナーとしての感染予防を尊重した人ほど、外すことに恥ずかしさを感じるのは当然です。
　マスクの混乱を鎮めるためには「マスク」と「マナー」を切り離すことが必要ですが、この3年間で徹底された「マナーとしてのマスク」がそんなに簡単に消えるとも思えず、マスク論争は今後数年続いてもおかしくはないと私は考えます。

　自粛とリモートが続いた日々から、リアルな部活動や学校イベントが再開し始めた。〈文化祭初の対面ミュージカル拍手はこんなに嬉しかったか〉高３野畑琴音。毎年この時期に、東洋大学から「現代学生百人一首」が届く。コロナ第８波のなか、かつての日常が戻って欲しいと切に願う