事態を悪化させているのは、いまの日本の風潮である「聞く姿勢のなさ」です。
　成人式ができなかった若者が不公平感を抱き、50代に「昔の人は何でもできて良かったですね」と言う。すると「昔は昔でどれだけ大変な時代だったか知ってる？」とすぐに返してしまう。
　そこで「ああ、そうだよね」という言葉を挟む余裕がない。共感まで行かずとも、一度相手の言葉を引き取ってみることができず、すぐ自分の意見や信念を言いたくなってしまうのです。
　「いまの仕事がつらい」と相談し、「でもあなたが選んだ仕事なんだから」と返されたら、話が次に進まず、本人には困惑しか残りません。
　上司と部下のみならず、親と子、夫と妻、教師と生徒、医者と患者など、あらゆる人間関係において「相手の話を一度受けとめる」という聞き方ができなくなっている。
　たまに叫んで歌いたくなるような日本の息苦しさが、この点にもあると思います。

　謙虚さを失わないようにしなければ、恵まれない人たちを見下すことになりかねません。恵まれた家庭環境や機会に助けられて、大学に入学したり、仕事に就いたりすることができたのですから。
　簡単なことではありませんが、私たちは多くの社会で拡大している不平等を再考する必要があります。そして、不平等の拡大に伴う成功への態度を見直す必要があるのです。
　家族のおかげで、育った環境のおかげで、私たちが手にした機会のおかげで、私たちの一部が享受してきた優位性についてのあなたの考察に感謝します。
　こう語ったサンデル教授は、どう不平等の是正したらいいか「実力も運のうち」で具体的な考えを示している。大学入試は一定の基準をクリアした者に、くじ引きで入学先を決めてはどうか、という提案だ。