眞子さまが結婚して眞子さんになった。結婚会見が終わるや否や、眞子さんはきちんとまとめた髪をほどき、パールのネックレスをはずし、淡いブルーのワンピースを脱いだ。まるで皇室を脱ぎ捨てるかのように。
　無造作におろした髪と黒っぽい服。会見からの帰途、そして翌々日、運転免許センターに出かけた眞子さんは、皇室ファッションとは対極の装いだった。
　この国の洋装化が始まって以来、皇室ファッションは国民のお手本であり続けた。ローブデコルテにパールのネックレス。とりわけ皇后のファッションは、正式な装いのわかりやすいお手本だった。
　フォーマルだけではない。「昭和のシンデレラ」と言われた美智子さまが、テニスの際に身につけていたVネックセーターからヘアバンドまで。高度経済成長期のミッチーブームが示すように、美智子さまのファッションは、当時の女性たちの憧れだった。
　平成になっても、雅子さまや紀子さまの装いは、究極の「お嬢さまファッション」として、ファッション誌でも大々的に特集された。お嬢さまブームとも相まって、上品な皇室ファッションは、お見合いにもふさわしい「上昇婚ファッション」として機能していたのだろう。
　しかし、令和の時代に「お嬢さまファッション」ははやらない。東日本大震災後は、スニーカーを中心としたカジュアルな装いが主流となり、在宅ワークの昨今は、きちんとしたスーツやワンピースを着る機会も減った。周囲の人々の好感度を意識する「お嬢さまファッション」よりも、着心地のよさや環境に配慮する「サステイナブルファッション」が求められている。
　長年にわたって「お嬢さまファッション」を提案してきたファッション誌「JJ」も昨年末で休刊した。もはや「お嬢さまファッション」で上昇婚を目指す時代ではない。
　何よりも、究極の「お嬢さま」だった眞子さんが、さっそうと皇室ファッションを脱ぎ捨てたことが象徴している。皇室ファッションがお手本だった時代も終わろうとしているのかもしれない。（甲南女子大教授・米澤泉）

　ファッション誌に「秋冬のコーデにはトレンドのレザーアイテムがマスト」とかいう文が並んだり、イノベイティブなビジネスパーソンがドラスティックなソリューションをクリエイトしてクライアントのベネフィットにコミットしたりするのも、「そういう業界にいる、そういう人としてのキャラクター」を演習したいという面があると思う。ある意味、「ステイホーム週間」「東京アラート」「ウィズコロナ」なんかも、例の都知事の人の「キャラ演出」と見なせる気がする。

　目先の支持を得たいがためだけの甘い公約は結局事態をいっそう悪化させ、負の遺産として積み残される。アベノミクスがもたらしたものも、けっしてバラ色の未来などではなかった。株価は急上昇した。けれどその間、成長率は低迷。実質賃金は伸びず国民の暮らし向きは良くならなかった。
　半世紀前の英国経済も閉塞状態に陥っていた。本人の歴史的な評価はさまざまだろうが、再建した立役者はまちがいなく元首相サッチャーだ。側近は彼女の政治的資質として思想的確信、道徳的勇気、一貫性、鉄の意志に加え「愛されることを望まなかったこと」を挙げる。愛されない覚悟をもって自らの政治信念を訴えていく。それが国家的大変革には欠かせなかった。（冨田浩司「マーガレット・サッチャー」）
　「日本の未来に希望はあると思うか？」
　先月、福島県の中学生の授業を受け持った機会に、全員に聞いてみた。全員が「ない」と答えた。年に何回か受け持つ大学の授業でも同じ質問をぶつけてみるが、いつも9割以上の学生が「ない」と答える。いまの政治が、未来の財政や社会保障に確かな責任をもっておこなわれているとは思えないことを理由に挙げる学生が多い。
　日本財団が2年前、9カ国で実施した18歳調査でも、国の将来が「良くなる」と答えた日本の若者はわずか9・6%。先進国は総じて低めとはいえ、米国（30%）やドイツ（21%）と比べても際立って低い。
　愛されることを望み、愛される政策ばかりを示し続ける日本の政治。若者が希望を抱かない国は、その帰結なのではないか。